2021年5月16日日曜日

【奏】参加アーティストインタビュー 第13回:ファミ箏(後編)

前回に引き続き、ファミ筝のメールインタビューの後編をお届けします。



今回のインタビューで取り上げている「暴 ―あばれ―」を含めて、収録の模様を動画にしていただきました。奏者がどのような間合いで演奏しているか、沖政さんがどのように指揮を取っているかなど、記事を読んでからもう一度ご覧いただくとより詳しくわかるのではないかと思います。

アレンジしていただく曲の選曲は基本的にお任せでしたが、ひとつだけリクエストはしていました。人気の高い「樹 ―いつき―」はアルバムに収録したいと考えていて、お願いできるならぜひファミ筝にと思いました。
当初の構想では「樹」プラス何か1曲と「静」くらいのスケール感を考えていたところ、7曲もやっていただけることになって驚いた……というのはこれまでにも書いたとおりです。
実のところ、それだけ作っていただいたのにはもうひとつ理由がありまして、それはインタビュー記事の最後で明らかになります。ぜひ最後までお読みください。

ちなみに余談ですが、今作のファミ筝の担当曲の特徴として、タイトルが原曲+漢字の組み合わせになっていることが挙げられます。この漢字はその曲に参加された奏者のお名前から一文字を取って並べたものだそうです。




以下、前回のメールインタビューの続きです。

Q6.「汀」の展開部でとてもかっこいい尺八のパートが入ってきますが、これはアドリブでしょうか。他に工夫された点はいかがでしょうか。

ズバリ、アドリブです!ゲーム内で「汀」を初めて聴いた時にとにかくこの曲を弾きたい!と思いながらゲームをしていて、ついつい曲に集中してしまい水玉にうまく乗れず苦戦しました。そして展開部、これはライブだったらソロ回しいけるパターンだな、とゲームをしながらずっと思っていました。

今回はせーの!でやる一発録りレコーディングなので流石に各パートのソロ回しはリスクが高いで回避しましたが、尺八の神永大輔くんにならそういうレコーディングでもアドリブソロを安心して任せられるので尺八ソロを入れた形です。なお、楽譜には「神タイム」という神永くんのアドリブタイムであるという記載をしております。

写真:神永大輔

工夫ではなく苦戦をした点なのですが…イントロの楽譜をどう書くか悩みました。ブワッと世界を変えるあのイントロの感じをどのように書いたら演奏する側が弾きやすいかという点で苦戦をしたのですが、合奏練習を通じうまくまとまってよかったです。

Q7.「暴」「樹」はもともとゲーム音楽的な打ち込みの原曲を和楽器にアレンジするという難しさがあったと思います。指揮を取られたことによって躍動感がより表現されていますが、アレンジや演奏で特に力を入れた点はどのあたりでしょうか。

ファミ箏の演奏には打楽器が入っていない事を不思議に思っている人もきっといると思います。簡潔に言うと音量バランスが著しく崩れるので打楽器が基本的に入らない編成となっております。

その事を前提として、では打楽器が受け持つような役割をどう対処していくのか?ということになりますが…十七絃という低音用の大きな箏と三味線、箏も含めて撥弦楽器、弦をはじく楽器で音の立ち上がりが速く、立ち上がりの音が強い。そのため打楽器がいなくてもビート感というか躍動感が得られるのかなと思います。

なかでも十七絃で低音部のうねりを作り出したり、白玉でどっしり構えたり、重要な役回りになっています。この重要な役回りの十七絃を担ったのが中嶋ひかるさんなのですが、彼女は小柄でありながらとてもパワフルで、ダイナミクスのレンジが広く使える素晴らしいプレイをしてくれました。ぜひ十七絃、低音で響いている音に耳を傾けてみてください。

写真:中嶋ひかる

また、これは生音の強みでもあるかと思いますが、音そのものの情報量が多い、というところですね。特に和楽器は作りがシンプルな楽器でもあり、西洋の楽器群に比べ音の輪郭が広いというか輪郭がフワッとしているかなと思ってます。逆に言うと弱みとしてノイズも増えるわけですが。そんな情報量の多い音が広いホール空間で反響もするので物理学者ではないので確かな事はわかりませんが(苦笑)、和音や差音が色々な箇所で作用して人数以上の迫力を感じさせている気がしております。

また、もちろん生演奏なのでリズムも揺れてしまいますし、リズムをある程度揺らしているところもあります。例えば競走馬が走る時、各馬の性質によって逃げ、先行、差し、追い込みという戦法をとります。例えば2000mのレースを一定の速度で走るわけではなく、僅かなタイム差ではあるのですが速い区間、息をいれて落ち着いている区間とそういうリズムがあるという事です。競走馬の話をすると別のゲームを想起してしまうので話を元に戻しますが、特に「樹」はセクションごとに単調にならないように部分部分で手綱を引くような感じでテンションを落ち着けようともしました。実際のタイム差はわかりませんがとりあえず現場で指揮をしている身としては、という事ですが(苦笑)。

「暴」の方は、気持ちとしては自分も体力を削ってひたすらボスと闘ってる感じです…演奏してる側も当然、何テイクかとっていくと疲れも出てくるわけですが、そのハードルを超えて倒すところのカタルシスですね。2周めの三味線パートの出番が終わったあたりのあと少し感、そして2周め終えた後の「やったか…?」感を一緒に追体験してください!

写真:沖政一志

Q8.告知や宣伝などありましたら、ご自由にお書きください。

詳細を決めてませんが(有観客に出来るか、配信のみになるかなどなど)、8月15日に今回収録した楽曲も演奏するコンサートを考えております。生演奏を聴いてみたいと思っていただければ大変嬉しく思います!

また、別のゲームの曲が収録されている音源のお話で恐縮ですがファミ箏のCDがこちらのサイトより購入出来ます。

今回のアレンジアルバムでファミ箏自体に興味を持っていただけならぜひ!こちらもお聴きくださいませ!



というわけで、三部に分けてお送りしましたインタビューもこちらで完結となります。音楽誌に載せても遜色のないような非常に濃密なインタビューで、読み応えがあったのではないかと思います。

8月にはコンサートも開催したいとのことで、7曲も作っていただいたのはコンサートでの演目を見越してのことでした。
昨今の情勢が流動的で先行きがどうなるかわかりませんが、もし観覧できる形で開催されるならば私もぜひ行きたいと考えています。生演奏を聴ける貴重な機会になりますので、ぜひお見逃しなく!