『天穂のサクナヒメ』楽曲解説、第8回のテーマは木のダンジョンの曲「谺 ―こだま―」です。
跳占地の森や大祷樹の森など、島の東側を占める森のダンジョンで流れる曲です。
この曲のテーマを一言で言うと「変化」。「颪 ―おろし―」が基準となる直球ストレートな曲とすれば、その次に流れるダンジョン曲であるこの曲は変化球という位置づけで、どれだけ振り幅をつけられるかという点に力を入れて制作しました。
まずは聴いていただいた方がわかりやすいですが、初見でこの曲が何拍子かわかった方はすごいと思います。
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「1小節ごとに5/4と6/4を切り替えている」が正解です。5拍子の曲は公開楽曲に掲載している「虚無への黙祷」など過去にも作ったことがありますが、ここまで複雑な曲は初めてのような気がします。
ただ、不思議な拍子ではあってもそこまで違和感はないのではないでしょうか。ウッドブロックで一定のシーケンスパターンを鳴らし続け、パーカッションでアクセントをつけることで、耳なじみがよくなるように気をつけたつもりです。
打楽器にウッドブロックや拍子木、メロディに尺八と竹笛など、「木」を使った楽器を多用しているところもポイントです。
「颪 ―おろし―」が出だしからはっきりと明快な曲想があるのに対し、「谺 ―こだま―」は森の鬱蒼とした雰囲気を表して妖しげに始まります。ステージが進んだ分だけ難易度も上がっているため、コード進行にはややシリアスな表情をつけつつも、ゲーム的にはまだ序盤のため重くなりすぎないように、エレピやドラムで弾むようなリズムを刻んでいきます。
Bメロで笛がジャジーな旋律を加え、サビではストリングスも加わってゆったりとしたメロディを奏でます。変拍子をいっぱいに使ったメロディにようやく耳が慣れてきた……というところで、さらなる仕掛けが待っています。
サビから間奏に移る部分をMIDIに抜粋してみましたが、違和感がある部分に気づいていただけるでしょうか。
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実はこの間奏部分はさらに拍子が変化していて、ここまでの5/4+6/4に変えて21/8が3小節、12/8が2小節と続いていきます。
別の言い方をすると、6/4の中の8分音符のリズムを保ったまま、テンポを165から3分の2の110に落とし、8分3連で跳ねている7/4拍子に移行させているとも言えます。
音楽制作ソフトをお持ちの方は上記のMIDIデータを開いて、12小節以降のすべてのノートの長さと開始タイムを3分の2に縮め、テンポを110に落とし、12小節から7/4、15小節から4/4と拍子を変更すると理解できるのではないでしょうか。
ここまで拍子に迷いながらもなんとかついてきたのに、ここに来てさらに平衡感覚を失うような変拍子――。
森の中で知っている道を歩いていたはずなのに、いつのまにかまったく知らない道に迷い込んでいる、そんなぞっとする感覚を音楽で表現しようとしました。
次回は序盤のボス戦の曲「暴 ―あばれ―」を紹介します。