『天穂のサクナヒメ』楽曲解説、第19回のテーマは村の秋の曲、昼の「稔 ―みのり―」と夜の「芒 ―すすき―」です。
今さらながら「村の曲」と言ってはいますが、ゲーム中では村という言い方はせず「我が家」とされています。鍛冶場や機織小屋は建つものの基本的には家が一軒しかなく、村という規模ではないですね。
これは開発側からいただいたBGMリストに「村の曲」とあったため、私もその名前で呼んでいるためです。村という言葉の方がイメージが伝わりやすいということもありますが、インタビュー記事などによると、米を育てるというアイデアが生まれる前は村を大きくしていくゲームを考えていたらしく、リスト作成時にはその名残りがあったのかもしれませんね。
稲作ゲームである本作にとって、秋は一年の苦労がようやく報われて収穫を迎える大事な季節です。新米の格に応じてサクナが強くなるとともに、献立の幅も広がったり、ゲーム中盤からは米を元手に都との取引もできるようになって、新たな素材や食材も手に入るようになります。
音楽面では、四季の曲の中で秋だけが3拍子の曲になっています。いよいよ収穫を迎えて心躍る感じをワルツの軽快なリズムで表現しようとしました。さらに昼間はシャッフルのハネたリズムになっていて、気持ちが弾む雰囲気をより強調しています。
編成はエレピ・ギター・ベース・ドラムの基本の4リズムにパーカッションでにぎやかさを加え、和の要素を三味線・琴・笛で表現しています。また、夏の曲「盛 ―さかり―」に引き続いてホイッスルや馬頭琴といった楽器も使っています。
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Aメロは笛、Bメロはホイッスル、サビは交互にと、メロディ楽器が交代し単調になることを避けています。三味線で主旋律を支え、馬頭琴で中低域にふくらみを持たせ、全体として豊かさが感じられるように編曲しました。
メロディに関して言うと、実は最初に作ったバージョンは洋風に寄りすぎていて開発側より修正を依頼され、和風に近づけたものが現在の完成版となっています。五音音階という点で和風とアイリッシュで共通している部分もあり、自分の裁量でアイリッシュ楽器を使っているところもありますが、この曲に関しては3拍子ということもあって和風感が薄かったようです。バランスをとるのはなかなか難しいですね。
夜の曲「芒 ―すすき―」ではシャッフルではなくストレートになっており、リズム楽器もぐっと抑えてシックで柔らかな印象にしています。
秋の夜ということでタイトルはお月見に関連するものにしたいと思いました。漢字一文字読み三文字という縛りを自分で決めていましたが、月に関するワードでは良いものが思い浮かばず、お月見から連想する風景として「芒」としました。北米版のサントラでは「Pampas Grass」と訳されていましたが、お月見という文化を知らないと機微まではなかなか伝わらないかもしれませんね。
編成はエレピに変えてピアノ、笛に変えて尺八が入り、薄く笙っぽい音色を流しています。コード進行もゆったりとしたものに変え、のどかで落ち着いた曲にアレンジしました。
特に馬頭琴の存在感が昼間よりも際立っています。実際の馬頭琴はもう少し荒々しい音色だったりもしますが、この打ち込みの音はマイルドでチェロっぽい印象もあります。使っている音源は以前にも紹介した「ETHNO WORLD」です。
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馬頭琴のような弦を弓で弾く楽器、いわゆる擦弦楽器は和風の曲ではあまりイメージがないかもしれませんが、中国を代表する擦弦楽器の胡弓は日本でも雅楽や民謡に使われています。有名なところでは富山の「越中おわら節」があります。
曲調はまったく違いますが、そういったイメージがあったために和風のゲームでも擦弦楽器を積極的に使おうという発想につながり、村の夏の曲や秋の曲につながっていったわけです。
次回は冬の村で流れる曲、昼の「蕾 ―つぼみ―」と夜の「静 ―しずか―」をあわせて紹介します。