『天穂のサクナヒメ』楽曲解説、第27回のテーマは仲間と支えあうイベントシーンの曲、「縁 ―えにし―」です。
サクナ達にとってつらい出来事があった後に、それでも仲間の力を借りて立ち上がろうとする、そんな支えあいのシーンで流れる曲です。
ヒノエ島に流された当初はいがみあって文句ばかり言っていたサクナと人間達も、長く苦楽を共にする中で確かな絆を築いていきます。何年もかけて米作りに苦心するゲームだけに、その中で各キャラクターの織り成すストーリーが重なり合い、思い入れがより一層強くなりますね。
開発側からは「仲間に力を借りたり貸したりしてどうにか立ち直ろうとする時など」「まだしんどいので元気すぎない。小さな希望というニュアンス」という指示がありました。
仲間のありがたさを実感できるような、しんみりとして優しい曲調にしたいと思い、琴と笛のメロディにエレピとギターが寄り添う伴奏を加え、シンセとコーラスで包み込むように編成しました。
特徴的なのが笛の音で、和風のゲームなのだから篠笛などの音色にするのが適切なのでしょうが、この曲ではアイリッシュ楽器のティンホイッスルを使っています。一般的には馴染みの薄い楽器ですが、映画「タイタニック」の主題歌「My Heart Will Go On」のイントロで流れる笛の音といえばご存知の方も多いのではないでしょうか。
なぜ和楽器ではなく洋楽器にしたのかと問われると、打ち込みに適した音色を持っていたからとか、優しい音色が曲に合っていたからとかいろいろ理由は思い浮かびますが、結局のところは「なんとなく、インスピレーションで」というのが正直なところです。
とはいえ自分自身の音楽のルーツのひとつにアイリッシュがあることは確かなので、たくさん曲を作っていく中でそういったカラーが現れるのは自然なことなのかなとも思います。
聴いてわかるとおり、この曲は田植え唄の第二主題をもとにアレンジしたものです。むしろその主題だけで一曲作ったものと言っても過言ではありません。
曲は大きく分けて前半と後半のふたつに分けられます。前半はキーがDで、エレピと琴が第二主題を奏でる原曲に忠実なアレンジです。
一方で後半はキーがGになり、琴は変わらず主題を弾いているものの、ホイッスルがそのメロディを背景として自由なフレーズを奏で、曲に哀愁と温かみを加えようとしました。
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ここ最近の連載記事の中ではしばらく田植え唄アレンジの曲はありませんでしたが、ここからラストにかけてはアレンジラッシュが続きます。
次回もそんな曲のひとつで、勇ましいイベントシーンの曲「誓 ―ちかい―」を紹介します。