『天穂のサクナヒメ』楽曲解説、第31回のテーマは祭りのシーンで流れる曲、「囃 ―はやし―」です。
とうとう豊穣の力を取り戻し、元凶である大龍との戦いに赴く決意を固めるサクナ。そんなサクナを称えようと、人間達の発案で祭りが開かれることになります。この曲はそんな祭りのシーンで流れるBGMです。
開発側の指示は「その場にいる誰かが演奏している様な想定での環境音楽。 締めくくりに田植唄が流れるのでメインテーマなどは持ってこず、あまり耳に残りすぎないメロディにしてもらった方が良い 」というものでした。
ここまで紹介してきた曲は「Aメロ―Bメロ―サビ」といったポップス進行に則ったものが多いですが、この曲に関しては上記の指示も踏まえて、完全なお囃子として作ろうと考えました。
楽器編成は大太鼓・締め太鼓・篠笛・鉦のみ。和音楽器がないのでコード進行もなく、純粋に笛のメロディと太鼓・鉦のリズムだけで聞かせるしかないという直球ストレートな曲です。
どこからどこまでが展開部などといった区分けもなく、最小限の編成で長さも短い曲ということで、今回は特別に1ループの最初から最後までをすべてMIDIにしてみました。
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以前にも書いたように、生楽器を想定した小編成の曲はどうしても打ち込みの不自然さが隠し切れず、苦手なところではあります。とはいえ少しでも違和感がなくなるようにと、実際のお囃子の演奏を見に行ったり録音したりして、どの楽器がどのように鳴っているのかを確かめながら作っていきました。
特に私自身が宇都宮に住んでいることもあり、地元の祭りで流れるお囃子のリズムに強い影響を受けています。幼い頃から聞き馴染んできたお囃子が、まさかこんな形で自分の作品に活きるとは思ってもみませんでした。
専門的にお囃子を学んだわけではないので説明する語彙を持ちませんが、上記のMIDIの終盤で太鼓がいったん弱くなってから強くなり、空白を作って決めるところは、地元のお囃子で聞いていて「かっこいいな」と思った動きを踏襲したものです。
「ヤナト田植唄」もある意味で自分の民謡に対するルーツが表れた曲で、これに関しては改めて取り上げますが、この「囃 ―はやし―」もまた自分のルーツが色濃く出た曲です。
家の敷地から一歩出れば水田があるという田舎住まいの環境が、この「天穂のサクナヒメ」という作品に対してはアドバンテージとして働いたという点は、上手い具合いに歯車がかみ合ったとも言えますね。
もっとも、そんな環境で『睡眠都市』や『epitaph』のような「都市と音楽」をテーマとした作品を作っているのは似つかわしくないですが…(笑)
次回は田植え唄の田楽版「ヤナト田植唄・祭 ―まつり―」を紹介します。