2021年3月19日金曜日

天穂のサクナヒメ楽曲解説 第32回「ヤナト田植唄・祭 ―まつり―」

天穂のサクナヒメ』楽曲解説、第32回のテーマは田植え唄の田楽版「ヤナト田植唄・祭 ―まつり―」です。



祭りの最中に山から火の手が上がり、悪神・大龍がついに復活。祭りに集まっていた神々を前にサクナは檄を飛ばし、最後の決戦へと赴きます。
そんなサクナを称え勇気付けようと、人間達のサプライズで田植え唄の田楽版が歌われ、サクナを力強く送り出します。ラストに向けて気持ちを盛り上げる感動的なシーンで流れるのがこの曲です。

物語の序盤ではいがみ合ってばかりで、田植えの重労働の不満を紛らわせるために歌っていた田植え唄が、最後の最後で心がひとつになり、豊穣神に感謝を捧げる歌へと変わる――。
このストーリーの組み立て方と音楽の使い方は非常に良く練られていて、物語と歌が相乗効果を発揮して強く印象に残り、上手い組み立て方だと感心させられました。

歌詞や曲構成については第7回の記事に書いていますが、歌詞の「田楽版のみ」と書かれているところがこの曲で初出の部分で、今までの記事で田植え唄の第二主題と呼んでいるものです。
ポップス的な言い方をすればサビと言い換えても良いですが、この部分の歌詞が加わることで労働歌から豊穣神を称える歌に変わります。そしてこのメロディが形を変えてさまざまなシーンで使われていたことで、すべてが田植えにつながっていたことを実感する、というのは第7回でも書いたとおりです。

ゲームの根幹を成すメインテーマでもあることからアレンジの指示は細かく、開発側からは「田楽(田植唄)で使える楽器」という資料を送っていただきました。作詞をする上でも各地方の田植え唄を相当聞き込んだらしく、並々ならぬこだわりようが伝わってきました。

<資料の一部>


その資料に則って、びんざさら・鳴子・神楽鈴・鍬金・チャッパなどの独特の打楽器と、竜笛・笙・尺八の管楽器、そして大太鼓・小太鼓を使っています。打ち込みという観点でいうと、珍しい楽器は音源がないため近い音色を探して代用するしかないのですが、それについてはとても印象に残っている出来事があります。

2018年の2月に音楽仲間数人と連れ立って静岡県に1泊2日の旅行に行きました。掛川でピアノ工場を見学するなど興味深い行程だったのですが、その中でも浜松市楽器博物館に立ち寄れたことは幸運で、イメージでしかわからなかったびんざさらなどの珍しい楽器が展示されていたのです。
演奏している映像も流れていて、どういった構造で音を出しているのか実感できたことはその後の制作で非常に役に立ちました。
他の展示物も非常に興味深く、民族楽器好きにとっては一日中いられる場所だったので、興味のある方はぜひ訪れてみてください。

浜松市楽器博物館

いただいた情報と実際に見聞きして作り上げていったのがこのリズムです。MIDIでは再現しきれないためMP3を用意しました。

38_yanatotaueuta_matsuri.mp3
田植え唄を作るのも初めてなら田楽風のアレンジも初めてでしたが、稲穂が風に揺れる音を模したびんざさらや、雀を追い払うための鳴子など、農作業に密着した音楽ということを改めて知ることができて興味深かったです。
現在、サクナのBGMの生演奏をテーマとしたアレンジアルバムを制作していますが、もし現代に田楽を継承している方々がいたら、この曲の生演奏もぜひ聴いてみたいですね。


次回はラストダンジョンの曲「樹 ―いつき―」を紹介します。