2021年3月28日日曜日

天穂のサクナヒメ楽曲解説 第33回「樹 ―いつき―」

天穂のサクナヒメ』楽曲解説、第33回のテーマはラストダンジョンの曲「樹 ―いつき―」です。



ついにラストダンジョン「深淵の大樹骸」に乗り込むサクナ。地中の奥深くに広がる闇深いダンジョンと思いきや、そこは意外にも明るく神秘的で、創世樹の力の一端を宿した場所でした。サクナは群がる鬼を倒しながら枝を伝って下へ下へと降りてゆき、最下層にいる大龍を目指します。
今回の曲はそんなラストダンジョンで流れるBGMです。

私は自分の名前で検索することはしないので、「田植え唄」が人気を博したことはともかく今作のBGMの評判は特に目にしたことはありません。そんな私でも、この「樹 ―いつき―」はやたら人気が高いということはなんとなく伝わってきています。

自分でも力を入れた曲ということもありますが、やはりこの曲の流れるシチュエーションが特殊なだけに、プレイヤーの心に強い印象が残るのではないでしょうか。最終決戦に至るイベントにおいて「誓 ―ちかい―」→「ヤナト田植唄・祭 ―まつり―」→「樹 ―いつき―」そしてラスボス曲の「龍 ―みずち―」と、田植え唄の主題がさまざまに形を変えて畳み掛けてくる構成は、いやが上にも気持ちを奮い立たせます。
一言で言うなら相当に「エモい」ですね。

制作側にも受けが良かったのか、プロモーション映像やトレーラーにも使用されています。ラストダンジョンの曲がローンチトレーラーに使われているなんて、考えてみれば異例のことかもしれませんね。それだけこの曲が持つ緊迫感とワクワク感、そしてゲームミュージックらしさが、「天穂のサクナヒメ」というゲームを伝えるのに適していたのでしょう。


制作する上で大事にしたのは「これまでの冒険の総決算」であることと、「これまでと違う異質さ」のふたつです。
まず総決算という意味では、これまでのダンジョンに登場した和楽器の三味線・琴・尺八・笛をすべて使うこと。それぞれの楽器に特徴的なフレーズを配し、ここに至るまでの長い道のりを思い起こさせます。
一方でドラムパターンはテクノ寄りにし、今までのダンジョンと違う雰囲気を感じさせること。特に、田植え唄の第一主題が流れるサビのところではキックが四つ打ちになり、あたかも田植え唄のダンスアレンジのような様相を呈します。
それらの要素をギター・ベース・ストリングスで包み込み、重圧感と緊迫感、壮大さを加えていきました。

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このサビの部分はストリングスのトップが一音ずつ上がっていき、ベースは半音で下がっていくという進行になっており、世界観の広がりを実感できるような構成で個人的に気に入っています。第一主題を繰り返したあとで短く第二主題のアレンジも入り、収束を経てイントロに戻ります。

楽器の数が多く、ストリングスも分厚く、ドラムの手数も多いというかなり濃厚な曲ですが、多くの方に気に入っていただけたようで本当にありがたく思います。
当然ながらこの曲もアレンジアルバム「奏 ―かなで―」に収録されますので、そちらにもご期待ください!


次回はラスボス曲「龍 ―みずち―」を紹介します。