2020年12月25日金曜日

天穂のサクナヒメ楽曲解説 第16回「盛 ―さかり―」「蛍 ―ほたる―」

天穂のサクナヒメ』楽曲解説、第16回のテーマは村の夏の曲、昼の「盛 ―さかり―」と夜の「蛍 ―ほたる―」です。


セミの声やカモの鳴き声など環境音もにぎやかな夏は、四季の中でもっとも生命力に満ちた季節です。田んぼでは雑草を抜いたり水温を調節したりと地道な作業が続きますが、日ごとに伸びていく稲を見守っていると愛着が湧いてきますね。
そんな夏真っ盛りの昼間の曲は、とにかく活気にあふれていてお祭り感のある曲にしたいと思いました。

進行はA-B-A構成で、間奏に入る直前でコードがD(サブドミナント)→E(ドミナント)と来て、A(トニック)に行かずFGを繰り返す、という展開は第12回で紹介した春の曲と似たところがあります。
メロディは祭りのの節回しを意識し、リズムには太鼓のお囃子に加え、タンバリン・ハンドクラップ・シェイカーなどの大勢のパーカッションでにぎやかさを表現。極めつけにラテンパーカッションのティンバレスと、ドラム・ベース・オルガンのリズム隊がサンバ調のグルーブを奏で、夏の熱気を演出しようとしました。

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「天穂のサクナヒメ」は和風ファンタジーの世界観なので、当然ながら音楽には和楽器を多用しているわけですが、実はファンタジーという意味においては和楽器以外の民族楽器も結構使っています。これから後の回でも詳しく解説しますが、中でもアイリッシュ系の音色は自分が得意としている部分でもあり、いろいろなところでちょくちょく出てきます。

この曲においてもメロディをとっている笛は和楽器ではなくホイッスルです。打ち込みの音色ではそこまで劇的に変化があるわけでもないですが、自分としてはこの音色が一番しっくりくると考えました。
他にもBメロで、琴と笛の裏で鳴っているチェロのような弦楽器はモンゴルの馬頭琴だったりします。和風とラテンとアイリッシュとモンゴルが同時に鳴っているわけですが、不思議と一体感は出ているのではないでしょうか。


夜になると一転して昼間のにぎやかさは鳴りを潜めますが、それでも熱気の名残りを感じさせる温かみを残しています。昼と夜の曲でのテンションの落差は、四季の中で夏が一番大きいと思います。
春と同様に風流なイメージからタイトルをつけようとして、初夏の夜に飛び交うホタルを想像して名づけましたが、ゲーム内では春の夜に飛んでいますね。まあどちらでも良いのですが…(笑)

リズム隊を聞くと顕著にわかるとおり、テンポ感が半分になっていてゆったりと聞かせるアレンジにしています。昼はサンバ調、夜はボサノバ調と、ブラジル音楽で対比させているところがポイントです。
また前回の「転 ―まろび―」に続き、この曲でも三線を使っています。三味線よりも軽やかな響きと沖縄から連想される熱気を加えたいと思いました。
他にもメロディを尺八に変えて落ち着きを出したり、エレピ馬頭琴をずっと流して柔らかさを感じられるようにと工夫しています。

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こうして解説してみると、思ったよりも国際色豊かな2曲だと改めて感じますね。こういった自由な編成や発想が生かせるのは打ち込みの強みとも言えます。


次回は火のダンジョン曲「焔 ―ほむら―」を紹介します。