2021年4月15日木曜日

天穂のサクナヒメ楽曲解説 第36回「ヤナト田植唄・巫 ―かみなぎ―」

ゲーム発売開始以来5ヶ月に渡り書き続けてきた『天穂のサクナヒメ』楽曲解説もいよいよ最後の曲となりました。
最終回で紹介するのはもちろん、メインテーマでありエンディング曲の「ヤナト田植唄・巫 ―かみなぎ―」です。

この曲は単体としても、ボーカルの朝倉さやさんのYouTubeチャンネルに上がっているので、ゲームを未プレイの方でも聴くことができます。下に動画を貼っておきます。

ただし、この曲を一番感動できる形で聴きたいのなら、やはりゲームを最後までプレイし、田植えの苦労と喜びを味わい、仲間との絆に思いを馳せ、物語の結末を噛み締めながら聴くというのが最高のシチュエーションでしょう。

この連載記事では何度もネタバレに注意を喚起してきましたが、これからゲームをプレイするという方にはこの記事は読まずに、ゲーム内で一番最初に聴いてほしいと願っています。






流れる順番としては最後に当たる曲ですが、田植唄をメインテーマとすることは2015年秋にこのお話をいただいたときから決まっていたので、制作順としては一番最初に手をつけた曲になります。制作時には曲名は決まっていなかったので、単に田植唄オーケストラ版と呼んでいました。

メロディの構成については第7回のアカペラ版の記事に書いています。
制作に当たっては資料としていただいたYouTubeの田植唄動画なども参考にしましたが、もともと労働の合間に口ずさむ歌という性質上、どちらかというとメロディが単調なものになりがちな印象を受けました。
これをそのまま作るとメインテーマとしてのパワーが弱くなりそうな気がしたので、盆踊りなどで歌われるリズミカルな民謡の要素を加えて、メロディが印象に残るようにしたいと考えました。

連載記事の中で何度か「自分のルーツが表れた曲」という言い方をしてきましたが、このヤナト田植唄もそのひとつで、民謡の要素を入れたいと思ったときに最初に思い浮かんだのが、栃木県民にとって馴染み深い「日光和楽踊り」でした。
��伝説のサークル「Ninja Action Team」をご存知の方なら「Born」の原曲といえばわかるかもしれません)

聴いていただければすぐ気づくと思いますが、この「日光和楽踊り」の歌の出だし3音が、まさにヤナト田植唄の出だし3音と共通しているわけです。もちろんそこから先の展開は全然違いますが、テンポ感やお囃子のリズムなど影響を受けた点は多々あります。

民謡の節回しを加えて親しみやすいメロディにすることで第一主題として確立させ、和風ファンタジー感を強めた第二主題とともに、メインテーマとしてゲーム中で何度もアレンジされる汎用性を付加させました。



曲の構成としては冒頭にまず歌が一節入って、そこから物語のエンディングを感じさせる重厚なストリングスが奏でられます。
制作時は当然ながらまだ歌手は決まっておらず、印象に残るイントロになればいいなと思って作っていましたが、ボーカルが朝倉さやさんに決まって収録で実際の歌声を聴いたときは、一瞬で耳を惹きつけられる最高の出だしになって感激しました。

ストリングスの演奏のあと、ギター太鼓が加わってゆったりとしたリズムで第一主題に入ります。曲は全体的に長調ですが、この最初の第一主題だけはマイナーコードから始まります。
というのもこの曲は歌詞に合わせたストーリー仕立てになっていて、最初は希望が見えない中で苦労して田植えをするというところをマイナーコードで描き、徐々に希望が見えてきたところでメジャーコードになり、サビに当たる第二主題の歌詞で初めての収穫を迎えます。
そして収穫を祝う祭りの太鼓が鳴り響くところが間奏となり、その明るいリズムを引き継いだ二番では、を迎えたりやや(子供)が産まれるなど希望に満ちていきます。
最後の第二主題では自分が天に昇り、子孫の繁栄や豊作を神様とともに見下ろす――という、壮大な物語が歌われています。

実際には曲を先に作ったあとで歌詞が当てられたわけですが、曲の構成にぴったりはまった歌詞と、その世界観を十二分に引き出した素晴らしい歌唱によってこの曲は真に完成したと言えます。
印象的なシチュエーションで使われ、圧倒的な歌声も相まって「泣いた」「感動した」という声も多数見受けられました。
いろいろな幸運が重なって本当に自分の実力以上のものが作れたと思いますし、愛される曲としてこれからも長く聴き続けていただければ幸いです。

長々と書き続けてきた楽曲解説もこの辺で終了とさせていただきます。
天穂のサクナヒメ」という最高のゲームとともに、皆さんの記憶に残る曲になれば何よりも嬉しいです。

ご愛読ありがとうございました!